先日、高校生のバレエをしている女の子が「肋骨が痛い」と言って来院しました。
話を聞くと、
「2日前に男性とペアを組んで、リフトの練習をしたとき、肋骨がバキッと音がしました」「それからアラベスクをするとバキッと肋骨がずれ、足を戻すとまたバキッと元の位置に戻るんです」「今は息を吸うのも歩くのも痛いです。病院に行きましたがレントゲンにはなにも写りませんでした」と言っていました。痛いと言っている場所はちょうど肋軟骨と呼ばれる場所と肋骨の境界線でしたので、検査結果も踏まえてこれは肋軟骨損傷の可能性があると考えました。
肋軟骨とは?
肋骨の前のほう(胸の中央近く)で、胸骨と肋骨をつないでいる軟骨部分。骨のように硬くはないが、強い圧力やねじれで損傷することがあります。
バレエのリフト動作で起こる「肋軟骨損傷」って?
バレエのパドドゥ(男女で踊る演目)では、男性が女性をリフトする場面があります。このとき、男性が支えている場所が、肋軟骨を持ってしまうと損傷が起こる原因になります。なぜなら肋軟骨は軟骨なので、肋骨よりもやわらかい性質があります。そのため負荷に弱く、損傷しやすい場所なのです。
イラストの青い部分が肋軟骨です。そこに小さな傷ができると肋軟骨損傷です。
バレエのリフトでなぜ肋軟骨を痛めるの?
急激な「反る・ねじる」動き
リフト中、女性が背中を反らせたり腕を大きく上げたりすると、胸郭(胸まわりの骨格)にねじれや過伸展が起こります。これが肋軟骨にストレスをかけ、炎症や微細な断裂を起こす原因になります。
胸郭、背中の柔軟性が足りない
背中、胸郭が柔らかいとリフトに対して衝撃を分散できます。しかし硬い場所があるとどうしても肋骨を突き出すような力の入り方をしてしまうので痛める可能性が高まります。
しっかりと背中を反れることで怪我の予防にもなり見た目も美しくなります。
リフトする側(パートナー)のNGな持ち上げ方とは?
バレエのリフトで肋軟骨を痛めるケースは、実は「リフトされる側の姿勢や体幹の安定性」だけでなく、「リフトする側の手の位置や持ち方」にも大きく影響されます。
良くないリフト動作の例:
- 肋骨の正面(胸郭前面)を強く押さえて持ち上げる
肋軟骨に直接圧が加わり、押しつぶされるような力で損傷するリスクが高まります。 - 腕の力で持ち上げる。
パートナーの男性は手の力で持ち上げようとしてはいけません。全身を使って持ち上げる必要があります。リフトのタイミングで手に力を入れて持ち上げると、圧力が肋骨へもろにかかってしまい肋軟骨を痛めることがあります。 - 勢いでリフトする
男性が自分のタイミングで急激に引き上げると、相手の体幹が安定していても、肋骨への衝撃が避けられません。女性側がジャンプするタイミングに合わせてリフトすることが重要です。
正しいリフトのコツ:
- 男性は肋軟骨の位置を把握しておき、その場所を避けてリフトする。
- 手の力を使わずに体でリフトする。
- パートナーと息を合わせ、リフト前に「準備OK」を確認してから持ち上げる
肋軟骨損傷が悪化しやすくなる原因
- 休まずに練習を続けてしまう
肋軟骨は血液循環が乏しく、回復しにくい場所です。そのため治りが悪く、癖になりやすい場所です。痛みが取れたからと言ってすぐに練習を再開するとまた痛めることがあるので注意が必要です。 - 姿勢の悪さ
猫背や反り腰など、胸郭に負担をかける姿勢が回復を遅らせます。
カイロプラクティックでの肋軟骨損傷アプローチ
肋軟骨自体は軟部組織で、直接矯正したりなどの刺激をすることはありません。
肋骨は背骨と接続するので肋骨を痛めると背骨がずれます。この女の子も背骨がずれていたので背骨から治療しました。すると多少体を動かしても痛みが減ってきたとのことでした。
肋骨にはたくさん筋肉がついているので関連する筋肉を緩めていくと息を吸っても痛みは無くなったとのことでした。
しかし、バレエで特有の「背中を反る動き」や「タンジュ」「ターン」「パッセ」などで痛みがでます。肋軟骨に問題があると正常な関節の動きも制限されてしまうので、股関節や背骨の可動性を治療して動きをしっかりとつけてあげることで痛めた肋軟骨に負荷がかからないようにすることができます。
この女の子も一回目の治療で普通に生活するのには痛みがなくなり、2回目では体のねじりができるようになりました。3回目でタンジュ、体の側屈が可能になり、4回目でターン、パッセ、アラベスクが可能になり、バレエの動きはほぼ問題なくできるようになりました。
休養を取るだけでは痛めた場所を固めてしまうだけで、バレエのように柔軟性が命であるスポーツには不利益です。
肋軟骨を痛めたからと言って、肋軟骨を矯正してもあまり意味はありません。関連する場所を治療して、バランスが取れるようにしてあげると、肋軟骨の痛みが早期に回復して、なおかつバレエの動きも低下させないようにすることができます。
編集者
柔道整復師・鍼灸師・カイロプラクター
稲益健人